20世紀の技術の粋を受け継ぎ、
強靭な橋へ生まれ変わる。
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岡谷高架橋は中央自動車道から長野自動車道に分岐する玄関口にあり、1986年(昭和61年)に開通したプレストレストコンクリート橋です。天竜川、JR中央線、および県道を跨ぎ、市街地を地上約55mの高さで横断します。建設当時の同形式の橋としては日本最長の橋長、世界でも2番目の長さであり、当時の最新技術の集大成ともいえる岡谷高架橋。しかし、建設後約40年が経過し、過酷な使用環境下における経年劣化や、建設当時の技術水準に起因する維持管理上の課題が明らかとなりました。
このため、NEXCO中日本が行っている「高速道路リニューアルプロジェクト」の一環として、今後長期間にわたって高速道路を安全・快適にご利用いただくために改良するとともに、新設する橋と同水準の耐震性能に向上させるための補強を行います。
岡谷高架橋の主橋梁(P4-P9)は、中央構造線(関東から九州へ延びる長大な断層)上に建設されるという地質的な特徴から耐震性に優れた上下部構造一体のPC多径間連続ラーメン構造が採用されました。
橋長578m、最大支間148mは当該形式において当時最大級です。中央道との分岐部に近接した本橋はランプ部を含め線形が複雑となり、ジャンクション側の側径間では4つのランプが合流するため上下線が支間の途中で分岐する特殊な上部構造となっています。
昭和61年度 田中賞受賞
田中賞とは、橋梁技術の向上に貢献した業績に対して授与されるものです。岡谷高架橋は、コンクリート橋の新分野を開拓すると共に、景観的にも優れていることが認められ、土木学会の昭和 61年度田中賞作品部門を受賞しました。
安定感があり、スレンダーな印象を与える連続ラーメン橋
風光明媚な岡谷市上空を地上約55mで横断するため、上下部構造一体で構造的に安定感があり、かつ非常にスレンダーな印象を与えるPC5径間連続ラーメン橋が選定されました。さらに構造細部に対しても、任意の形状に構築できるコンクリートの特長を活かし、八角形断面の橋脚および逆台形断面の橋桁を採用することによって、雄大さのなかにも柔らかなイメージを表現しています。
騒音・振動が生じにくい構造
精密工業の街として発展してきた市街地上空を大型車等が高速で走行するため、岡谷高架橋では騒音・振動が生じにくいコンクリート橋が採用されました。また、伸縮継手を少なくできる連続ラーメン橋とすることで、構造的にも配慮がなされています。
将来のメンテナンス性を考慮した構造
岡谷高架橋は、天竜川・JR中央本線・県道および岡谷市街地の高さ約55m上空を通過することから、定期的なメンテナンスがかなり困難と予想されました。そのため、塗替え塗装が不要なコンクリート橋を採用し、連続ラーメン橋の特徴を活かして支承を少なくすることで、メンテナンスを最小限とするようにしています。
橋桁側面に円形ハンチを採用
当地区は「塩嶺おろし」で知られる寒冷地であり、冬期の平均最低気温は氷点下約10度、厳冬期には氷点下20度以下にも達します。そのため、橋桁側面には円形ハンチを採用し、つらら対策も兼ねた断面形状としています。
当時の最新技術を駆使して建設した岡谷高架橋ですが、
さまざまな自然災害を経て得られた教訓を活かすとともに、
維持管理の中で見えてきた課題を解決するために、
リニューアル工事を行います。
リニューアル工事に先立ち、
岡谷高架橋および隣接するランプ橋の点検、
調査ならびに性能の評価を実施しました。
本工事では高速道路橋に要求される
4つの性能を最新基準のレベルまで向上させます。
安全安心な橋へ
橋桁の長期にわたる安全性を向上
PC鋼材の腐食防止対策と
PC外ケーブルを用いた補強を行います
快適に使われ続ける橋へ
走行安全性を向上
耐久性の高い走行面に更新します
地震に強い橋へ
大規模地震時の安全性
および復旧性を向上
最新基準レベルの耐震性に強化します
予防保全型の橋へ
材料劣化を抑制し
第三者被害を確実に防止
劣化したコンクリートの補修と劣化防止対策を行い、
コンクリート片のはく落対策を施工します
高速道路橋に要求される性能
安全性
想定されるすべての作用の下で、構造物が使用者や周辺の人の生命や財産を脅かさないための性能
復旧性
地震などの偶発作用によって低下した構造物の性能を回復させ、継続的な使用を可能にするための性能
使用性
通常の使用時に想定される作用の下で、構造物が正常に使用できるための性能
耐久性
構造物が予定供用期間にわたり、安全性、使用性、復旧性を保持する性能
※安全性、使用性、復旧性および耐久性の定義は、「2022年制定コンクリート標準示方書【維持管理編】:土木学会」より引用
岡谷高架橋では詳細調査の結果、PC 鋼材を腐食から守るPCグラウトの充填不足が確認されています。
現時点での安全性の低下はありませんが、将来的にPCグラウト充填されていない PC 鋼材が腐食することにより破断し、橋桁の安全性が低下する恐れがあります。
腐食の現状
PC 鋼材が破断すると、橋桁の安全性が低下します。
また、腐食した横締めPC 鋼棒が破断すると、その衝撃で高欄基礎
部のコンクリート片が落下する恐れがあります。
PC 鋼材が破断すると、橋桁の安全性が低下します。
また、腐食した横締めPC 鋼棒が破断すると、その衝撃で高欄基礎
部のコンクリート片が落下する恐れがあります。
岡谷高架橋ではPC鋼材に関する配置タイプ別の詳細調査の結果、一部でPCグラウトの充填不足が確認されています。
上床版およびウェブに配置されている張出し鋼棒は多段に配置されていることや、上面が車両走行側となることから、
非破壊検査が困難なため調査数が限られています。せん断鋼棒については、今回の工事期間中に追加調査を予定しています。
なお、横締め鋼棒の大部分は対策済みで、一部は本工事で対策予定です。
調査によって確認されたPCグラウト未充填箇所は、PC鋼材の腐食を防止するため、最新技術によりPCグラウトを再充填し、長期にわたる安全性(耐久性)を確保します。鋼材の配置条件によっては、調査や再充填ができないPC鋼材もあるため、将来の性能低下に備え、箱桁内にPCケーブルを配置します。
PC-Rev 工法は、従来の PCグラウト再注入工法の課題を解決するために開発されました。
PC 鋼材が比較的健全な状態のうちに、超低振動ドリルにより削孔。シース内の空洞量を測定した後、スネークポンプによりPCグラウトを注入します。
PC-Rev工法の特徴
※画像はイメージです
1
構造物への負荷低減
2
空洞測定方法の
高精度化と注入管理の充実
3
PCグラウトの充填性の向上
4
鋼材防錆に優れ、再注入に
適したPCグラウト材料
大型車の走行頻度がかなり高い状況でも所要の安全性を保有していることを解析にて確認
現在と将来を想定した安全性を確認するため、設計の想定を超えるような大きな荷重が作用する条件(※)における解析を実施しました。 その結果、調査によって確認されたグラウト未充填のPC 鋼材が全て破断したことを想定した場合(図中の劣化想定耐力)においても、発生断面力に対して安全性が確保されていることを確認しています。
※大型車の走行頻度が比較的高い状況を想定した設計活荷重(B活荷重)の2.5倍を載荷した場合の条件
本工事では未充填が確認されたすべてのPC鋼材に対しPCグラウト再注入を行いますが、調査ができないPC鋼材はPCグラウト再注入が 困難な箇所もあります。そこで、これらのPC鋼材が将来破断した場合でも、低下した箱桁の耐力を回復できるよう、PC外ケーブルを本工 事で配置します。この外ケーブルは、本工事では過緊張にならない程度の緊張力にとどめ、本工事にて設置するモニタリング設備による 計測結果に応じ、必要が生じたタイミングでプレストレスを導入できるようにしています。なお、外ケーブル定着部など局所的に顕著な応 力が生じる箇所に対する安全性は、FEM解析により確認しています。
外ケーブルFEM解析コンター図
PC鋼材3Dモデル
岡谷高架橋では、適切な維持管理を行いながら長期にわたり供用
を続ける計画としています。
経年劣化による橋桁の変化をとらえるために、レーザー変位計によ
る桁のたわみ計測、光ファイバによる桁のひずみ計測、桁内に配置
する外ケーブルの伸び計測等を複合的に実施し、橋の異常やその
原因を分析します。
連続的なモニタリングを実施
橋を使い続けながら、遠隔でモニタリングを行い、データを定期 的に確認することで、効率的かつ信頼性の高い維持管理を行うこ とが可能です。また自然災害が発生した際にも、計測データから 構造物の損傷の有無や、損傷部位を正確に判断することができ、 適切な補修計画を効率的に行うことができます。
ポットホールが発生した路面(2023年5月撮影)
冬季に大量に散布する凍結防止剤に起因する塩害や厳冬期の凍害、大型車の繰り返し荷重の影響に
よって、床版上面の劣化に伴う舗装のポットホールが多発し、車両走行時の振動やさらなる路面の劣
化進行の原因となっています。
これは、建設当時、床版防水を施工していなかったこと、施工時に必要となるグラウトホースのあと処
理方法や床版上面箱抜き部へのあと埋め材の規格が整備されていなかったことなど、床版への厳しい
作用に対する抵抗性が必ずしも十分でなかったことが原因として挙げられます。
近年のポットホール発生箇所(概略図)
ポットホール
床版上面は透気性・透水性が極めて小さく、耐久性に優れた超高性能繊維補強コン クリート(UHPFRC)で打替えを行うことで、維持管理のリスクやライフサイクルコス トを長期間にわたって最小化させることができます。なお、本工法はNEXCO中日本 と鹿島建設(株)が共同研究により開発したもので、実験により長期耐久性を確認し ています。
岡谷高架橋は、長大橋であることから、温度変化に伴う桁の伸縮や、地震時の揺れに対応するために、ビーム型伸縮装置が採用されています。しかし、他の路線では同形式の伸縮装置において金属疲労に伴う損傷が多数発生し、走行安全性の低下や騒音・振動の原因となっており、岡谷高架橋でも劣化が進行しています。
劣化したビーム型伸縮装置は疲労耐久性の高い鋼製フィンガージョイントに交換します。この鋼製フィンガージョイントは、溶接部の止端仕上げ等により直接輪荷重を受ける過酷な使用環境に対して耐疲労性を向上させており、長期にわたる走行安全性を確保します。
鋼製のフィンガージョイントの交換事例
溶接部を止端仕上げしたフェイスプレート例
壁高欄では、凍結防止剤の塩分がコンクリートに浸透し、塩害劣化が進行しています。塩分調査の結果、非常に高い塩化物イオン濃度が確認されており、内部の鉄筋が腐食、侵食されることによる車両衝突時の安全性の低下や、美観の低下が懸念されています。
塩害によって腐食した壁高欄
冬期の凍結防止剤による塩害に対する遮塩性を向上させる目的で、壁高欄本体には早強ポルトランドセメントをベースに、塩害に有効とされる高炉スラグ微粉末が30%以上含むよう調整しています。セメントを接合するためのモルタルにも、プレキャスト壁高欄と同等、あるいはそれ以上の遮塩性を発揮できるように高炉スラグ微粉末を加えています。
また、内部に配置される鉄筋は、更なる耐久性向上を目的に、耐食性・防食性に優れたエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用しています。
我が国の耐震設計基準は、岡谷高架橋完成後に発生した大規模地震による被災を教訓にして、段階的に強化されてきました。
本工事では、地震時の安全性を最新基準レベルに強化するため、耐震補強を行います。
岡谷高架橋は昭和 55 年道路橋示方書を適用して設計されており、この基準で設計された橋脚の倒壊事例はないものの、復旧に長時間を要するような損傷が生じる恐れがあります。
橋脚の外面は高強度鉄筋を配置してコンクリートで巻き立てるとともに、内部にはコンクリートを充填し、基部に高強度のUHPFRCを用いることで、曲げ耐力を向上させます。
また、炭素繊維シートを接着することでせん断耐力を向上させ、橋脚の脆性的な破壊を防止します。
岡谷高架橋は阪神・淡路大震災より前の基準で建設されているため、支承の設計が大規模地震に対応できていません。大規模地震によって支承が損傷すると、緊急車両を通行させるための復旧に長時間を要することもあり、課題となっています。
支承に支えられている橋桁が地震によって横ずれを起こさないようにするために、横変位を拘束するコンクリートブロックの配置などにより支承部が破壊しないように対策を行います。
PC連続ラーメン橋の岡谷高架橋は、中間橋脚に上部の変形(回転・伸縮)を吸収し、荷重を下部に伝達する支承がないため、地震時の揺れが橋桁に直接伝わります。そのため、大規模地震時に橋桁が損傷する可能性があります。
地震時に橋桁に作用する鉛直方向や水平力に対し、脆性的な破壊が発生しないように、炭素繊維シートで補強を行います。
橋桁、橋脚、支承などの各部材に対し、最新の設計基準に従ってレベル2地震動に抵抗するように補強を行った場合でも、これを上回る規模の地震動に襲われることや、設計の想定と異なる挙動を示すリスクがゼロではありません。その場合でも、落橋という大惨事を防止することが必要です。
想定を超える地震時に支承が万が一破壊した場合でも落橋しないように、落橋防止システムによって、上部構造と下部構造を連結します。
※橋脚下端の排水不良
※掛け違い部の排水不良
※桁端部の劣化
凍結防止剤の飛散による塩害や中性化の影響などにより桁外面のコンクリートが劣化すると、コンクリート片がはく落するリスクがあります。また、排水管損傷・漏水によって、箱桁内に滞水が発生することで、塩害劣化が進行しています。
これまで桁外面の変状に対しては、点検結果に応じて写真に示すスポット的な補修を繰り返してきましたが、本工事では、桁内外の必要なすべての部位に対し長期耐久性を確保できる対策を実施します。また、高架下の交差道路等の安全に加え、本工事完成後に高架下敷地を有効活用することも視野に入れ、それらの影響範囲すべてに対しコンクリート片のはく落対策を施工します。
橋面からの漏水に伴う塩害による劣化[1]
橋面からの漏水に伴う
塩害による劣化[2]
排水管の破損により耐水した桁内(現在は排水済)
排水管破損に伴う耐水による劣化
凍結防止剤の飛散による塩害や中性化の影響などにより桁外面のコンクリートが劣化すると、コンクリート片がはく落するリスクがあります。また、排水管損傷・漏水によって、箱桁内に滞水が発生することで、塩害劣化が進行しています。
桁端部の漏水対策
桁端においては、伸縮装置の止水機能が劣化し漏水する可能性があります。このような滞水リスクがある部位に対して、コンクリートの保護層を施工することで劣化を防ぎます。
耐久性の高い排水管への交換事例[1]
耐久性の高い排水管への交換事例[2]
排水装置の漏水対策
排水管は耐腐食性、耐凍結破壊性などに優れた高密度ポリエチレン(PE)管に取り替えることで、耐久性を向上させます。
岡谷高架橋の耐震対策及び橋梁改良工事を行います。
岡谷高架橋は、約6年のビックプロジェクトにより強靭な橋に生まれ変わります。
岡谷高架橋(P4-P9)
形式PC5径間連続ラーメン箱桁
岡谷高架橋(P9-A2)
形式PC3径間連続ラーメン箱桁
岡谷JCT橋
形式鋼2径間連続非合成箱桁
水神第一橋
形式PC4径間連続ラーメン箱桁
水神第二橋
形式PC4径間連続ラーメン箱桁
水神第三橋
形式PC2径間連続ラーメン箱桁
水神第四橋
形式PC2径間連続ラーメン箱桁
床版上面の打替え工事などおこなうため、昼夜連続・車線規制を実施します。秋季は隣接する区間でも実施します。工事進捗により、工事期間を変更する場合があります。
最新の規制予定は工事専用WEBサイトをご覧ください。
岡谷高架橋 走行車線規制時
工事中は走行可能な車線が片側2車線から1車線に減少することから、平日朝夕の通勤時間帯や休日に渋滞を予測しています。時間帯別の詳しい渋滞予測や迂回ルート、料金調整などは工事専用WEBサイトをご覧ください。
工事期間中は、渋滞を光点滅でお知らせするシステムを高速道路上に設置します。
走行中に光点滅を見かけたら、その先で渋滞していますので、前方に注意してご走行ください。渋滞が近づくにつれて、点滅が速くなります。
2車線から1車線に車線数が変更する区間(規制テーパー部)に、視線誘導となるLEDライトを設置し、光の流れにより安全な速度での走行を促します。また、夜間の視認性を向上させるため、照明を設置します。
視線誘導の設置例
テーパー部照明の設置例
渋滞中は早めに合流すると交通の流れが悪くなります。渋滞中の合流時は規制箇所の先頭まで進み、お客さまが一台ずつ交互に合流する「ファスナー合流」にご協力をお願いいたします。
工事専用WEBサイトでは走行ルートの選択やお出かけ時間の変更をご検討いただけるよう、最新の所要時間情報を提供いたします。ぜひWEBサイトをご覧ください。